ニャースのかきくけこ

ニャースはアニメ、ゲーム界のベンジャミン・フランクリン。

2018年3月に読んだ本

2018年3月に読んだ本

 

1.

ヒトラーの秘密図書館

ヒトラーの秘密図書館

 

ヒトラーは読書家だった。少なくとも一晩に一冊、ときにはそれ以上の本を読んだという。彼は16,000冊以上の本を所有していた。」学歴コンプレックスを解消するために貪るように、真剣に書物に向き合ったヒトラーの蔵書は戦後の混乱の中で大半は散逸して所在不明である。著者は、アメリカ議会図書館ブラウン大学で保存されている1,300冊を紐解き、さらにその中からヒトラーが確実に読んで参考にしたと確定的に思われる10冊について紹介している。単純な本の内容紹介ではまったくなく、ヒトラーが人生、あるいは政治のどの時期に読んで、そしてそこから何を得たかということが膨大な資料の精査、関係者のインタビューから浮き彫りになってくる。情報のソースも巻末に一覧で示されており、学術的価値も非常に高い。深夜、「静粛に!」の札を掲げてドイツの将来をひたむきに考慮するヒトラーの姿が脳裏に浮かんでくる。

 

 

2.

シェイクスピア全集 (1) ハムレット (ちくま文庫)

シェイクスピア全集 (1) ハムレット (ちくま文庫)

 

悲劇ということで主要人物がばたばたと死んでいくが、ロミオとジュリエットほど死ぬ因果が理解できなかった。周囲の巻き込まれた人までが命を落とす理由が不十分に感じた。もうひとつは、行動が停滞する局面と、鮮やかな決断力とスピードで進行する場面の違いがどこからくるのかということが不思議だった。劇の脚本を改変して演じさせたり、イギリス王への手紙の差し替えなんかは非常に見事な流れでできてしまうハムレットなのに、気違いを演じているとはいえ、屁理屈をこねたり、見方によっては周囲へのただのやつあたりにしか思えないことをして行動が進まない時があって、そのもどかしさが何故生じているかがよくわからなかった。自分の読解力が成長したら、またいつか未来に読んでみよう・・。

 

 

3.

[オーディオブックCD] デリヘルの経済学 (<CD>) (<CD>)

[オーディオブックCD] デリヘルの経済学 () ()

 

Audibleでオーディオブックとしての読書。1.5倍速で2回続けて聴いた。98年の風営法改正以降、急成長したデリヘルという風俗業態。その経済規模の他を圧倒する大きさに驚く。店舗型とは違い開業資金も少なく済むため、一時は雨後の筍の如く無数の店がオープンしたがその内のほとんどは1年を待たずして閉店した。生き残った店と潰れた店の違いがどこから来たかについて論じた本。デリヘル(というか風俗産業)ほどダイレクトに客からの反応を貰う商売は確かにないと思う。結局は、風俗産業と言えども、業界で生き残っていくためには顧客からの支持を得なければならない。そしてそれを実現するためには、Web(デリヘルの場合これが店舗、看板にも相当)のユーザビリティも高くし、働く女性のケア・教育をし、性病などのリスク管理をきちんと行うといった当然といえば当然のことを、いかに的確に実行できているか、ということに尽きるのだ。

 

 

4.

田中角栄 心をつかむ3分間スピーチ

田中角栄 心をつかむ3分間スピーチ

 

Audibleでオーディオブックとして聴いた。田中角栄氏のスピーチ部分で、わざわざ声色を変えて、というかダミ声のような悪声までマネようとする必要は別にないと思った。「雪は資源になりえる」という主張には驚いた。勢いだけで聴衆の心を捉えていたのではなく、言説を裏付ける独自に入手した情報や数字による根拠もしっかりと持っていた。そのことが心を掴むスピーチとあいまって人々を心酔させることができた。冠婚葬祭の中で、とくに葬儀については決して義を怠らなかった、多忙を極めている中でヘリで移動した話などは考え方として大変勉強になった。

 

 

5.

いま日本人に読ませたい「戦前の教科書」
 

大正期から昭和15年まで尋常小学校で使われた国語の教科書の素晴らしさを紹介する本。具体的には、大正7年(1918年)から使われたハナハト読本と、昭和8年(1933年)から太平洋戦争の開戦まで使われたサクラ読本についてだ。どちらも全12冊で、当時の小学生は1年間に2冊ずつ勉強していた。小学校における国語の授業の比率が全体の半分近くを占めたという現代との違いにも驚くが、なにより衝撃だったのは、この当時の教科書が単純に「おもしろい」こと。今、大人の私が読んでも普通に読み物としておもしろい。扱われている題材は非常に幅広く、日本の偉人は当然のこととしてダーウィンナイチンゲール第一次世界大戦でのロシアの将校、古代ローマの王など広く世界に目を向けていた。豊かな情操教育とともに、科学や歴史の勉強にもなっていたのだと思う。曽我兄弟や鉢の木の話は知らなかった自分を恥じた。もっと勉強したいと思った。昔の小学校6年の義務教育過程の勉強を・・・。

 

 

6.

これだけ!油圧・空気圧 (これだけ!シリーズ)

これだけ!油圧・空気圧 (これだけ!シリーズ)

 

買ってから1年近く本棚で眠っていたがひょんなことから掘り出し読み始めた。新幹線こだま車内で読了。油圧の知識は直接的には必要になる機会がないけど、ついでということで全章読んだ。やはり似通った部分が多くある一方、気体の方は圧縮状態も考慮しなければならないなど違いについてもよくわかる。空気圧のメーターイン/メーターアウト制御の違いや5ポート電磁弁についてなど今回理解をさらに深めることができた。
ところで、表紙の食パンはなんだろう?背表紙は焼いた後だけど・・・。トーストするくらい短い時間でお手軽に、概要を学ぶことができるという本シリーズのアピールポイントを象徴して表しているのかな?

 

 

7.

絶対に行けない世界の非公開区域99 ガザの地下トンネルから女王の寝室まで

絶対に行けない世界の非公開区域99 ガザの地下トンネルから女王の寝室まで

 

一般には公開されない秘密の場所とはどんなところか?と気になったので読んでみた。テキサス州の法医人類学研究施設(死体農場)、コカ・コーラのレシピ保管庫、アララト山上の奇妙な物体(ノアの箱舟説)など興味を惹かれたところはいくつかあった。
ミステリー的な世界のスポットを知りたいと思っていたが、本書には政治、軍事、宗教関連の場所が多く掲載されている。軍事施設などは公開されないのはいわば当然であって、機密を守るためにどこの国であっても少なからず公開を制限される部分はある。

 好むと好まざるとにかかわらず、秘密や秘密主義は私たちの社会の基本要素だ。
 つまりは実際問題として、世界の大部分は一般大衆にとって立ち入り禁止の場所なのである。

著者は本書のはじめにこのように宣言していて、これは確かにそうだ。例えば自分が所属する会社を考えてみても、外部にオープンにできる部分というのは非常に限定的で、情報のほとんどはその会社に所属する人しかアクセスできないし、また会社に入ることすらできない。また、では会社の一員でさえあればその会社に関してすべて知ることができるか言えば当然そうではなく、情報の公開は層別に行われるので経営情報などは大部分の社員には知る術もない。
そういった意味での秘密・機密は日常に溢れているので、本書ではそのようなあたり前のものは省いて、もっと公的な場所であるにも関わらずなんらかの理由で制限された場所というようなものを多く紹介してほしかった。要するに、研究所やデータセンターなどはいらないのでは、ということだ。

また、少し話は変わるが、本書は原著『100 Places You Will Never Visit: The World's Most Secret Locations』の訳書である。タイトルが示す通り、原著では100箇所紹介されているが、なぜか日本版でひとつ消されて99となっている。
消えたのはどこか?
それは日本の福島原発だ。日本は伊勢神宮1箇所しか掲載されていないが、原著ではこれに加え福島原発があった。日本語訳版出版にあたり、収録されなかった理由は一切の説明もされておらず、不明である。このような扱いの方が私がもともと求めていたミステリー的な、人為的な情報公開の制限である。

 

・・・ということで3月は計7冊の読書(内2冊はオーディオブック)。

とりあえず今はAudibleのお試し無料会員だけど、通勤時に今後も活躍してくれそう

なのでそのまま正規会員になろうと思う。月額1500円。

今月最も印象に残った本はヒトラーの秘密図書館。読書の効能、本が持つ偉大な力を痛感させられた。本によって変わる、本によって学ぶとは常に建設的な良い結果をもたらすのではなく、手にとって本次第でそれは破滅的な結末をもたらすこともある。

良くも悪くも本にはそれだけの力がある、というのがまず第一のこの本からの学びだった。世界史の数多ある本の中でも異色の切り口であるので、今後もこの本は手元に置いておこう。ヴァルター・ベンヤミンの「人が本を保管しているのではなく、蔵書によってその人自身が保存されている」という言葉も印象に残った。

*↑原文ママではない。